きっと生きることに疲れるほど刺さるヤマシタトモコの『違国日記』

きっと生きることに疲れるほど刺さるヤマシタトモコの『違国日記』

叔母も姪も不器用だけど

きっと生きることに疲れるほど刺さるヤマシタトモコの『違国日記』

あなたは人付き合いが得意ですか?孤独を微塵も感じずに生きていますか? もし、そうではないと思うなら、きっとこの漫画は心に響くものがあるだろう。 ヤマシタトモコは、人間の内面を描くのが巧みな漫画家だ。 この作品でも、時に「人間関係を恐れる繊細な大人」の視点から、時に「自分の感情に対する理解すら未熟な子供」の視点から、我々読者の心を暴いてくる。 今回はそんなヤマシタトモコの「違国日記」を解説する。

 

あらすじ

高代槙生は35歳、人見知りの少女小説家。心底嫌いだった姉が交通事故で死んだ。

田汲朝は15歳、槙生の姉の一人娘で素直な良い子。事故で両親を失い、槙生に引き取られる。

「違国日記」は、しばらくぶりに再会したこの叔母と姪の二人暮らしを軸に物語が進む。

槙生は、他人との関わり方に悩み、朝は、言いようのない孤独や怒りに苛まれている。そんな二人が戸惑ったり救われたりする話の中で、きっと心に刺さる言葉を見付けるだろう。

と、自称“人生に疲れた人間”による紹介なので、暗い話だと捉えられてしまったら申し訳ない。「違国日記」はそんな陰鬱で重たい話ではない。朝は純真無垢でかわいいし、槙生も旧来の悪友と馬鹿笑いするような明るさがある。

そんなわけで、なんか色々こじらせてる人もそうでもない人も、作品の内容を知らなくても心の琴線に触れるであろう台詞をご紹介します!

「あなたの感じ方はあなただけのもので誰にも責める権利はない」

この台詞は、親が死んで悲しいかも分からない自分を変だと思っていた朝に、槙生から贈られる。

“あなたは変ではない。だが、変だと思う人はいるかもしれない。それでも、あなたが感じることは自由で、誰かに否定されていいことではない。”

そんな風に勇気づけられる台詞だ。

「違国日記」のテーマのひとつに、「個人の尊重」というものがあると思う。この台詞は、そのテーマの象徴のようなもので、この後の話でも何度か出てくる。

「あなたの感じ方はあなただけのもの」という言葉は、朝を支えてくれたが、「わたしの感情がわたしだけのものであるように 他人の感情もまた他人だけのものである」という反面に気付かされた時には、改めて孤独を感じることになる。

「あなたとわたしは別の人間」という当たり前のことは、心地よい関係もつくれば、埋められない寂しさも生む。そういう人間関係の難しさも考えさせられる。

ただ、槙生は、「別の人間だからわかり合えない。だから、歩み寄ろう。」と朝に伝えている。わかり合えないと割り切った上で、一緒に生きていくために歩み寄る、という投げ出さない姿勢がとても良い。

「実際にやるまでは自分が向いてないなんて思わなかった」

この後には「皆してるし自分もできると思い込んでた そしたら違った」と続く。槙生の旧友の台詞だ。

“思いもよらないことがやってみたら向いてたってこともあると思うから、槙生も朝を上手に育てられるかもよ”という励ましの旨に繋がる台詞なのだが、個人的には「やってみたらこんなことも上手くできなかった」という失望の方に惹かれてしまった。

そういう経験を持つ人間は少なくないのではないだろうか。作中の彼女は、離婚を経て、「自分が結婚に向いてないなんて思わなかった」と打ち明けるのだが、別に結婚生活じゃなくても、就職活動とか社会生活とか“普通の大人”になることとか、様々な「こんなはずでは」があるはずだ。

こうやって言葉として出会うことで、意識していなかった出来事に名前をつけられたような、少しスッキリした気持ちになれる台詞だ。

「どうしてわたしはこんなに世界と繋がるのがうまくないんだろう」

たらい回し寸前の朝を見過ごせずに引き取った槙生だったが、人といると疲れる性分ゆえ、毎朝起きると人間がいる生活に負担を感じていた。

そんな共同生活も何ヶ月か過ぎた頃、槙生が家に帰ると、朝の友人が遊びに来ていた。朝からの連絡を確認していなかった槙生は驚き、とにかく一人になりたいと苦しさを感じながら、自己嫌悪する。その時の胸中だ。

「どうしてわたしはこんなに世界と繋がるのがうまくないんだろう」

これはもう単純に「わかる」でしかない。多かれ少なかれ人間関係が苦手な人間は、こういう「なんでうまくできないんだろう」に共感を覚えるはずだ。

このシーンは、槙生の繊細さも表れている。

槙生は、朝いわく「群をはぐれた狼のような目で」親族にタンカを切ったり、小説家らしい堅い口調で朝に語りかけたりと、いかにも「強い大人の女性」といった風に見える。しかし、その一方で、思春期の朝を迂闊に傷付けてしまわないかと密かに怯え、姉の言葉の影響か自己評価の低さが窺えるナイーブな人間だ。

そんな繊細な槙生が朝に見せる、真摯で不器用な優しさもこの作品の見どころだ。

まとめ

さて、ここまで作品のほんの一部を紹介させていただいたが、興味をそそられる内容はあっただろうか。

あったら本望!なかったとしても実際読んでみよう!ヤマシタトモコはいいぞ!
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(ライター:福岡シエ@1994hits)