瀬戸内の怪異と往年の侵略SFが合体!?異色の青春漫画『サマータイムレンダ』

瀬戸内の怪異と往年の侵略SFが合体!?異色の青春漫画『サマータイムレンダ』

愛する島を未知の恐怖から守りぬけ!

瀬戸内の怪異と往年の侵略SFが合体!?異色の青春漫画『サマータイムレンダ』

それは書店に平積みになっていても目立たない、流行からは一線を引いたような、落ち着いた佇まいの表紙。一体どんなストーリーなのか想像もつかない雰囲気なのに、何故か引き込まれてしまう、そんな不思議な魅力を持った新しい漫画。今回紹介するのは『サマータイムレンダ』‘ひと夏の画像・音声生成’ともいうべき題名の、謎めいた物語です。

 

通底するテーマ「死と隣り合わせの青春」

「わかってるな」とまず感心させられたのが、表紙の良さです。表紙で大事なのは、「どんなキャラクターが、如何なる環境に居るのか」を一瞬で伝え、それが読者の心を掴めるかどうか。

どんなストーリーかはわからないけれど、はかなげな表情を浮かべた若い男女が海や山を背景に立ち、または倒れている―。一体、彼らに何があったのか?という胸騒ぎを覚えさせる表紙は、「青春」と「死」が隣り合わせであったことを読者に思い出させる、強力な心理装置なのです。

あらすじ紹介―少年、島へ帰る

主人公・慎平は幼少の頃両親を失い、高校へ行かず東京の料理学校に通うために島を離れた少年。引き取られた家の娘で、共に育ちながらケンカ別れしたままだった潮が、海で溺れた島の子供・しおりを助けようとし誤って水死したという訃報を受け、2年ぶりに帰島します。

何と、表紙の美少女は冒頭で死んでしまっている!という意表を突く序章なのです。しかし、肩透かしと思うのは早合点。実はこの潮こそが、物語を牽引する鍵となる、本作上最も魅力的なキャラクターなのです。

一見滞りなく終わる葬式と、奇妙な噂

潮の妹・澪の出迎えを受け、参列した葬儀も終わった後、事故に居合わせた旧友・窓から

「潮の首には絞められた痕があった」

という不穏な話を聞く慎平。そして澪の口からも、不思議な話が飛び出すのです。

「しおりちゃんがもう一人の自分を見た」

島に起きている異変とは?忍び寄る謎と怪奇

潮は海で何者かに絞殺された可能性がある。しおりが二人存在する。2つの奇妙な証言は関係があるのか?澪と二人、謎を追う慎平。

しかし、そんな二人の前に現れたのは、何と、拳銃を持ったもう一人の「澪」でした。別人のように冷酷な「偽者」に撃ち殺される澪。そして慎平の額にも、銃弾が撃ち込まれます。

死からの跳躍!?時間が回り始める・・!!

悪夢のような、一瞬の出来事。普通ならば、主人公が死んで話は御仕舞いですが、何と、次の瞬間慎平は、島に戻ってきたその時に意識が戻ってしまいます。全ての時間が巻き戻り、この島の異変と危機にもう一度立ち向かうチャンスを、慎平は手にしていたのでした。

SF・怪奇3大要素

物語を動かす要素には、以下の3つのファンタジックなアイディアが織り込まれています。

  1. ドッペルゲンガー構想
  2. 小説『盗まれた街』の侵略SFプロット
  3. 独自のタイム・ループの発想

①は「もう一人の自分に出会ったら、近々死ぬ」と言われる、世界的に知られた怪奇現象。

②は『SFボディスナッチャー』など何度も映画化されているジャック・フィニイのSF小説。「よく知っているはずの隣人が瓜二つの別人に思える」という恐怖。一般にはカプグラ症候群といわれる精神疾患として説明されますが、これを実際に「隣人は宇宙からの侵略者とすり替わっている」という設定で描き出した名作です。

本作では宇宙からの侵略者ではなく、島に古代から住み着き、島民の影になって存在してきた何らかの生物という設定で、連載中の2019年3月現在、詳細はわかっていません。

③は死ぬと意識が特定の時間軸に回帰する、という特殊な能力によって、慎平は不可解で冷酷、そして手強い「影」との戦いを2度目、3度目とやり直し、謎を解き、戦術を編み出しながら敵の中枢へ迫っていきます。

タイム・ループによって複雑化しながらも、巧みに伏線を巡らせ解決してゆく作家の見事な手腕で、何度も一巻目から読み返したくなる面白さを持っています。

漫画家のふるさとこそが傑作の苗床

『サマータイムレンダ』の武器の一つは、瀬戸内海の島、という舞台設定。横溝正史から岩井志麻子まで、多くの小説家が舞台に選んできた怪奇やミステリーの宝庫です。

作者は和歌山県出身の田中靖規。学生時代遠足で訪れたという、淡路島と並んだ無人島・友ヶ島をモデルに、もしここに人が住んでいたら、という構想を元に描かれる「実在しないが、限りなくリアルな島の物語」です。

近年、特定された地方を舞台にした漫画は作家のセンスの向上もあってか、『ゴールデンカムイ』はじめ強い印象を残すものが多くなっています。作家によっては、生まれ育った故郷の記憶が最大の武器となり、その後の漫画家人生を決定的なものにすることも珍しくありません。

本作の大きな魅力の一つに、物語全編で話されている独特の和歌山弁があります。

  • 「あっぽけー!」(ばかやろー!)
  • 「さぶいぼたっとー」(鳥肌たったわー)
  • 「かえらしとこあらいしょ」(かわいいところあるじゃない)
  • 「おなかおっき」(おなかいっぱい)

などなど、一般によく知られた関西弁とはちょっと違う、愛嬌溢れる和歌山弁。本当に聞こえてくるようにリアルで、思わずセリフを口に出して読みたくなるような魅力があります。

魅惑のキャラクター陣!

本作の最大の魅力は何よりも愛すべき登場人物たちです。慎平、潮はじめとする島の若者たちの他、二人のオトナの「戦士」が登場。これが途轍もなくカッコイイのです。以下、主要人物の中から厳選して紹介!

男勝りで裏表がない潮 物語の牽引力

物語の冒頭で死んでいたはずの潮は、何と1巻目の最後のコマで衝撃的な復活を果たします。その正体は、やはり複製された「影」。

しかし、彼女だけは違いました。単純だけど家族や仲間を想うまっすぐな心と正義感は本物の潮そのまま。多くの謎を秘めながら、想いを寄せる慎平とともに、勇敢に戦います。

二重人格でボケもかますクール美女ひづる

ショットガンや金槌で「影」を仕留め、慎平の危機を救う謎のメガネ美女。その正体は、元島民で今は天才覆面作家の南方ひづるでした。

過去に「影」により双子の弟を殺され、何故か弟の人格が乗り移って二重人格になっています。クールな物腰と裏腹に、時折飛び出すボケがたまらなくキュートです。

ギムリの如く頑固でお茶目 根津銀次郎

島の猟師。過去「影」と戦い、ひづるを助けたことから、ライフル銃を手に共に行動します。見た目・性格ともに『指輪物語』のギムリの如し。ひづるのボケに対し、ツッコミ担当。慎平にも時に厳しい父のように接します。

圧倒的な可愛さと恐ろしさ しおり&ハイネ

敵役もまた、魅力的!実は複製されていた少女・しおりは「影」集団の大元締め的存在・ハイネ自身であることが徐々に明らかに。その並外れた能力は、慎平の時間をループする力と何らかの関係があるようです。

島の生活描写、アクション!全編に滲み出る作家のセンス

周囲の住民がほとんど顔見知りの島の生活は、緊迫感あるストーリーの行間にほのぼのした雰囲気を感じさせ、絶妙のバランスをもたらすと同時に、親しいはずの隣人の豹変、村落コミュニティの崩壊という人間の根源的恐怖を表現するのにふさわしい舞台設定といえます。人と人の距離の近さに一昔前の日本人の生活感を醸し出しながらも、スマホを駆使して戦術に応用する現代の若者たちの姿も自然に織り込むところに、作家のセンスを感じます。

そのセンスの良さは、「網代」「南方」などこの地方特有の苗字の採用や「潮」「澪」「ひづる(日出る)」などの美しい名付け、また数々のスリリングなアクション描写などにも遺憾なく発揮されています。

根幹にある、青春への憧憬と後悔の念

島を出る前にケンカした慎平と潮。最後に慎平のカレーが食べたいな、という潮に「また今度な」とつれなくする慎平でしたが、後に気づくのです。「今度」なんて、なかったのだ、と。

物語には、過ぎ去ってしまった青春、取り返しのつかない過去への後悔が込められているような気がしてならず、時折胸が締め付けられてしまいます。

遠く離れてしまった大切な人に会いたくなる、そして守りたくなる、『サマータイムレンダ』。ひと夏で終わるかわからない、果ての見えぬ戦いと深き愛の物語から、当分目が離せません!