戦慄の学園サイコラブストーリー『ホームルーム』

戦慄の学園サイコラブストーリー『ホームルーム』

愛しくて、かわいそうで、もっと近づきたくて♡

戦慄の学園サイコラブストーリー『ホームルーム』

本作は、学園で繰り広げられる、サイコラブストーリーである。 作者は新人漫画家・千代。この新人とは思えない実写的な絵と背筋がゾクゾクとするストーリーに、読者はあっという間に惹きこまれるだろう。 まさかこの人がこんなことを・・・という、突然の登場人物のキャラ裏返りには読むもの皆戦慄させられる。今後も目が離せない『ホームルーム』の魅力を存分に語りたいと思う。

 

ホラー映画のようなリアルさ

主人公の幸子が、接着剤の塗られたイスに座ってしまうところからこの話はスタートする。最初の数ページをめくり、「クラスでいじめを受けている女の子の話」として読者は読み進めるだろう。
そして、「爽やかでイケメン、そして正義感の強い、愛田先生」が幸子をイスごと担ぎ上げ、保健室まで連れて行く場面に、先生と生徒の禁断の愛を垣間見る。

たしかに、“禁断の愛”をテーマにしていることは間違いない
だが、そこら辺のありきたりな“禁断さ”ではない。幸子が家で眠りにつく頃には、目を覆いたくなるような異常事態が発生していることになる。映画であるなら、ここで観客から多数の悲鳴が上がることだろう。いや、この実写的な絵なら、漫画であっても思わず声を上げてしまった読者は少なくないだろう・・・。

キャラの裏返り、どんでん返し、予想できない展開

内容はざっくりと言えば、ストーカーもの。1巻の表紙を見る限り、「この女がストーカーか!」と感じさせるような不気味な絵だが、読み始めると実は逆で、幸子がストーカー被害を受けているということが分かる。

普段はみんなから好かれている人物。しかし、裏の顔は幸子の寝ているあいだに部屋に忍び込み、変態行為をくり返す卑劣なストーカー犯。
キャラの表の顔と裏の顔にぎょっとする。でもそれはストーカー犯だけではなかった。ストーカー犯さえも凍り付かせる行為をはたらく、「もうひとりの犯人」がいるのだ。それは、幸子のまわりの誰かには違いない。そして、幸子も裏の顔を持っていた・・・!?

とにかく、登場人物全員おかしい。そしてヤバイ。読み進めていくうちに、読者は疑心暗鬼にとらわれてしまうことだろう。

背筋が寒くなるほど完璧なサイコ人格の描写

本作の一番の魅力は、サイコキャラの異常な人格が、完璧なまでに描写されていることだ。
幸子のスマホを盗聴し、カメラやGPS機能を乗っ取り、常に監視する。
そのストーカー犯の正体は、幸子のすぐそばにいる意外な人物。幸子との関係性を考えれば、このストーカー犯の行為がどれほど常軌を逸しているかが分かるだろう。

しかし、ストーカーにはストーカーなりの“正義”があった。そう、彼はそうすることで幸子のヒーローであろうとしているのである。これは彼の衝撃的な生い立ちに起因しているのだが、その異常なまでの愛で読者を絶望に陥れるのだ。

もし、こんなやつが身近にいたらと思うと・・・。「普通」を装っている顔と、その裏の異常な人格の二つの顔がリアルに描き分けられていて、「こんなやつが身近にいないという保証は、どこにもない」と疑心暗鬼に駆り立て、私たちの心境までも操作してしまうところが、この漫画のすごさだと言える。

過去を背負った者同士

ストーカー犯は暗い過去を背負っていた。子ども時代を振り返る場面では、部屋で首を吊っている母親の横で、ゲームをする彼がいた。そのとき彼は「ヒーローになる」と決めたのだ。

一方、幸子も身勝手な母親に捨てられたという経験をしていた。それを知ったストーカー犯が幸子に感情移入するのに時間はかからなかった。
ストーカー犯は自分の守るべき相手が幸子であると思い込み、幸子のヒーローになることにしたのだ。

似たような過去を背負っている、ふたり。ふたりがお互いのことを認識したときにどうなるのか、今後が楽しみである。

絵で魅せる漫画

こうしてサイコ野郎が出来上がる過程がよく分かるように描かれているのだが、過去を回想する場面はわずか数ページ。本作はセリフもモノローグも少ない、「絵で魅せる漫画」だ。細かいコマ割りでくどくどと説明をする描き方をしない。

たとえば、ストーカー犯がストーカー犯だと分かる場面は、わずか1コマ。1ページを大きく使い、ごみ袋に瞬間接着剤を捨てる場面が描かれている。これで読者は一瞬にして理解するだろう。幸子のイスに接着剤を塗った犯人が彼だということを。
本作はホラー映画のようなリアルさを持っていると書いたが、まるでカメラのフォーカスが、その捨てられた瞬間接着剤から立ち去っていくストーカー犯へ移り、ペタペタと足音を鳴らす後ろ姿が遠ざかっていくさまが目に浮かぶようだ。

まとめ

本作はホラー寄りの生々しい描写だが、ストーリーとしては恋愛ものだ。そして、幸子のことがひそかに好きな不器用男子が奮闘する、くすっと笑えるコメディ要素も含んでいる。
一概にはジャンル分けできない独特な雰囲気の漫画『ホームルーム』。「最近面白い漫画ないなあ」と飽きてきた人にぜひ読んでほしい。