一家団欒のために、彼は生まれてはいけなかったのか『not simple』

一家団欒のために、彼は生まれてはいけなかったのか『not simple』

ただ、家族に会いたかった

一家団欒のために、彼は生まれてはいけなかったのか『not simple』

「not simple」は家族を追い求める主人公「イアン」の生涯を描いた漫画です。 顔を見てくれない母親、無関心な父親の元で育ったイアンと姉の「カイリ」。2人にとっては、お互いだけが心通える家族でした。非情な家族の元で過ごすことに耐えられなくなった姉は、イアンと2人で住むための資金づくりに強盗を働きます。 結局、未遂で逮捕されてしまい姉は刑務所へ、イアンは姉のいない中、母と父の元で暮らす事になるのです。

 

「弟を助けに」

カイリが刑期を終えて自宅へと向かうと、家は売りに出され、誰も住んでいませんでした。

話を聞くために父親に会うと、2人は離婚、母はイアンを連れて故郷のイギリスへ渡ったと言います。「アル中の母がイアンを連れて行くことになぜ反対しなかったのか」と問うカイリ。カイリの質問に対して父親は「再婚相手が子供が嫌いだから」と非情な回答をします。

父に期待することを辞め、カイリはオーストラリアからイギリスへ渡ることを決めるのです。

「姉さんとの約束」

カイリはイギリスへ向かい母と合流すると、イアン、母、それぞれの「幸せ」について考えます。カイリとイアン2人だけで暮らせば、裕福な暮らしは難しくても平穏な毎日を送れる。でも、母親はどうなるのか?

カイリは、母がアル中になった原因を、自身と父の関係にあると考えていました。「自分が原因であるならば、自分がその傷を癒そう。そして、イアンは父の元でお金の心配がない生活を送るべき」カイリは自身の答えを出すと、イアンが父の元で暮らせるよう手配をします。そして、つかの間の再開となったイアンに対して、約束をするのです。

“ねぇ、イアン あなた夢を持ってる?
 その目標を達成したら、姉さんに会いにきてもいいわ”

ずっと姉と暮らすことを夢見ていたイアンは、また離れて暮らすことを悲しみました。しかし、姉の約束を支えにオーストラリアで生きていくことを決意します。

本当に欲しかったのは

姉がイギリスの刑務所にいると知ったイアンは、イギリスへと向かいます。しかし、イアンがイギリス向かう1ヶ月前に、カイリは肺炎で亡くなっていました。

カイリに会えなかったイアンは、「姉に聞くはずだった疑問」を母に尋ねるため、母の元を訪ねます。母に会い、長年考えていた「自分の母親は姉ではないか」という疑問をぶつけます。すると母親は、「アンタはカイリとあの男のガキなんだよ」と吐き捨てるように答えました。父親は実の娘であるカイリに手を出し、2人の間に出来た子供がイアンだったのです。

母は、イアンが生まれた当初、愛そうと努力していました。しかし、イアンの存在は「旦那が自分の娘に手を出した」という事実を母に突きつけます。イアンを見る度に、旦那の顔が浮かぶようになり、遂には憎しみの対象となってしまったのです。

母親から「もう2度と顔を見せるな」と言われたイアンは、イギリスからオーストラリアへ渡り、父親を訪ねます。
 
父親はカイリが亡くなったことを聞いても「そんなことはどうでもいい」と一蹴。自身が今、新しい家族と幸せに過ごしているため、「もう顔を出してくれるな」と父親もイアンを拒否します。

信頼していた姉は死んでしまい、母親からも父親からも存在を否定されてしまったイアン。血縁上の「家族」は存在しますが、イアンにとっての「家族」はいなくなってしまいました。途方に暮れたイアンは、ニューヨークにいる友人の元を訪ね呟きました。

 “歩いていると、よく親切な人と出会う。
 今ここに こうしていられるのは その人たちのおかげだと思う。”

 “でも、 本当に感じたいのは、
  もっと近くにいる人たちからの ぬくもりなのに”
 
友人の元を訪ねるまでに、見知らぬ人からの親切を受け取ってきたイアン。他人から見れば「幸運」とも言えることですが、イアンが欲しかったのは皆が当たり前に享受している「家族との温もり」だったのです。

ただ、家族との繋がりが欲しかった

イアンの一生を描いた漫画「not simple」。無邪気で素直なイアンが最後まで求めていたのは、「家族の繋がり」だったのです。

道端で会った人に、「服や食事の世話をしてもらえること」は幸運かもしれません。けれど、イアンが求めていたのは、特別なことではありません。「おはようと言い合う」、「一緒に食事をする」、「今日あった出来事を話す」、など日常にありふれた「当たり前の生活」です。

イアンにとって姉は唯一、イアンを「家族と認めてくれる存在」でした。だから、姉との約束は彼の心の支えとなり、必死に守るべき対象だったのです。家族は選べません、イアンも恵まれた境遇とは言えない家庭に生まれました。けれど、「家族」を追い求めてしまう。諦めていても、両親に拒絶されると途方に暮れてしまう。

「家族」ってどんな存在でしょう。居心地はいい?失いたくない?逆に憎むべき対象?人によって回答は様々でしょう。「not simple」を読んだ時、イアンに共感するのか?否定するのか?自分の心情を観察すると、あなたにとって「家族」を再認識できるでしょう。

(ライター名:ユカノ@)