『銀魂』における心の傷

『銀魂』における心の傷

攘夷四天王たちの生き様を読み解く

『銀魂』における心の傷

朗らかで明るく、おちゃらけているキャラが多い『銀魂』。 しかし作中では、過去に十数年に渡って続いた戦争がありました。 天人(あまんと=宇宙人)襲来時に起こった攘夷戦争ですね。 その戦争において心に大きな傷を負った攘夷志士たちの、戦後の生き様の違いを心理学的視点から探究してみました。

 

攘夷四天王それぞれの戦後の生き方

国のために戦い、国に裏切られた攘夷志士たち

『銀魂』の攘夷戦争とは、物語が始まる前の出来事。
主人公である坂田銀時を始め、桂、高杉、坂本が同時期に天人の支配から国を守るため戦っています。
この戦争で彼らは多くの仲間を失い、傷つくこととなりました。
しかも幕府は攘夷志士たちを切り捨て、天人に屈してしまったのですからひどいものです。
戦後、彼ら侍は傀儡政権となった幕府、そして侵略者である天人に弾圧されることになります。

戦前の世界に「戻そう」と戦い続ける桂小太郎

攘夷四天王の一人、桂は戦争の後も攘夷党という団体を作り、攘夷運動を続けています。ほとんどテロリストのようなもので、序盤はかなり過激な組織でした。
桂は幼い頃からしっかりしており、幼馴染みの銀時や高杉と比べても大人びた言動が目立ちました。武家の家に生まれながら、早くに両親を亡くしたことで、責任感が人一倍強かったのです。
他者との調和を大切にする彼は、アドラー心理学でいうところの「共同体感覚」を幼少期から持ち合わせていたと言えるでしょう。

坂本も持っていた共同体感覚とは?

共同体感覚とは他者との結びつきを重んじて、共同体を形成するところから自分の居場所、幸福を見つけ出そうとする心理です。
仲間を信頼し、仲間に信頼されることで、自分自身の価値をきちんと認識する意識です。
桂はもともとこの意識が根底にあったからこそ、いがみ合うことの多かった銀時と高杉の間を取り持ったり、多くの攘夷党メンバーを指揮することができたのです。
攘夷四天王の一人、坂本も、この感覚を大事にしています。

宇宙に飛び出し天人相手に商売をする坂本

天人や幕府などに対して反旗を翻す桂と違い、坂本は天人を相手取り、商売を始めます。
共同体感覚とは、自分が所属する組織のみならず、社会全体の一員であることも指しますから、正に坂本は天人も引っくるめた宇宙全体を共同体と捉えているのですね。
もちろん敵であった天人を利用しているという部分もあるのでしょう。しかし桂のように戦おうとはしていません。
もともと戦が好きではなかったという発言もしており、四人の中では戦後、最も上手く立ち回っている人物です。

戦争によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)

それは終わることのない苦痛

桂と坂本に比べ、戦争の爪痕が強く心に残ったのが銀時と高杉です。
心理学用語でPTSD(心的外傷後ストレス障害)というものがあります。強烈な精神的ショックを受けたことが、その出来事の後もトラウマとして残り続ける症状のことです。
桂も坂本も当然、戦争でPTSDを負っていますが、彼らは自分の力でうまく傷を癒しています。
ところが銀時と高杉の傷はあまりに深く、心身に異常をきたしていたと言っても過言ではないほどです。

PTSDが人格に影響してパーソナリティ障害となる事例

高杉のショックが仲間より大きい理由は、
・敬愛する師が目の前で殺害された
・手を下したのは信頼していた友人
・その直後、左目を失う
この三つが同時に起こってしまったからです。
精神的にこれ以上ないほどのダメージを負っている最中、肉体にも大きな負傷をした。それが彼の悲劇でした。
高杉のPTSDはその心に定着し、精神疾患の一種であるところのパーソナリティ障害を引き起こしてしまったのです。

過度な破壊衝動と憎悪

戦後の高杉は、天人も幕府も、そしてかつての友たちも、すべてを破壊しようとしています。目的のためなら天人とも手を組み、利用し、踏み台にします。
松陽先生が死んだ世界など、高杉にとっては何の価値も無いものだからです。
パーソナリティ障害には幾つかの種類がありますが、彼の場合は感情の起伏が激しく周囲を巻き込む劇場型、という分類ができます。
もっとも、来島また子を救って新たな鬼兵隊を作ったのは、彼の心の中に共同体感覚の意識が生きていたからに他なりません。
鬼兵隊の仲間たちによって、高杉はギリギリのところで正気を保っていられたということでしょう。

見事なPTG(心的外傷後成長)を見せた銀時

ずっと心には穴が空いていた

さて、この漫画の主人公である銀時も、PTSDに苦しみ続けた男です。
仲間たちを守るためとはいえ、自分の手で松陽先生を斬ってしまったことが最も大きな原因ですが、そこに至るまでも白夜叉として多くの天人の命を手にかけ、逆に多くの志士が犠牲となるのも目の当たりにしてきました。
連載開始当時は軽薄でしょうもないニイちゃん、という印象でしたが、実はその心の中は空っぽでした。
何に対しても感情が湧かなくなる症状をアパシーと呼びますが、戦後しばらくはそのような状態だったのです。

銀時に生きる意味を与えた新八と神楽

戦争で何もかも失い、死んだように生きていた銀時に再び光をもたらしたのが新八と神楽の存在でした。
国のために戦ったのに何も得られず、大切なものをことごとく失った銀時は、ようやく手に入れた宝物を必死に守ろうとします。
PTSDとなる出来事で苦しみぬいた後に、トラウマを克服してポジティブな心理的変容を遂げることをPTG(心的外傷後成長)と言います。
そういう意味では『銀魂』という作品は、銀時のPTGを描いたものという見方もできるわけですね。

まとめ

駆け足で『銀魂』のキャラクターを心理学的視点から比較してみましたが、いかがでしたでしょうか?
笑えるシーンや下品なネタも多い漫画ですが、傷ついて大切なものを失った男たちの生き様も、ちょっとは気にしながら読んでみてください。