『ミスミソウ』

『ミスミソウ』

美しさの中の残酷

『ミスミソウ』

ミスミソウ(三角草、学名:Hepatica nobilis)とは、キンポウゲ科ミスミソウ属の多年草。雪の下でも常緑であることからユキワリソウ(雪割草)の名でも知られる。(wikipediaより)―ついに映画化された押切蓮介先生の残酷無残復讐ホラー『ミスミソウ』。ネットでも”鬱漫画”といえばまずこれが挙がる有名な作品ですが、それゆえに手が遠のいている方も多いはず。 そこで今回は、前評判が走りすぎているきらいのあるストーリーの紹介は脇に置いておいて、押切先生渾身の絵について語っていきたいと思います。

 

ミスミソウの咲く頃に

まずこの表紙(上の画像・完全版の上巻)。美しいですね。マンガの表現はモノクロの制限を生かした余白の使い方にその妙がありますが、この白!そして黒。映画化されるのも納得の、洋画のポスターのようなシンプルな美。

こちらは完全版の下巻。

ミスミソウの舞台は、廃校が決まった中学校のある田舎町です。そして季節は冬。一般に日照量の少ない場所では精神疾患に罹る確率が増えるのだそうです。ラテン気質の明るさと、雪に閉ざされた村の違いは知識がなくともなんとなく分かります。しかも廃校寸前の学校で、季節は冬。

今年の初め、平成30年豪雪に見舞われた経験から言っても、大雪は本当に不安になる。悪い意味で浮世離れした場所です。

滅びが差し迫った陰鬱な町に、主人公の野咲春花は東京からやってきました。都会から来たよそ者。彼女は格好の標的になり、凄まじいいじめにあいます。家族にも話せず、傷ついていくばかりの少女。

しかしいじめっ子らの悪意は収まるどころかますます燃え盛り、ついに春花の家に放火するという暴挙に及びます。真相を知った春花は復讐の鬼と化し……。

というのがあらすじですが、これだけならよくある復讐ものかと思われるでしょう。

映画と漫画、描写を比べてみた

この作品が話題になった理由は、その徹底したいじめと暴力の描写。そして冬の地方の町というシチュエーションが、その描写にリアリティと暗さを与えています。映画もそれを完全再現。この写真を見た時はビビッときました。

雪、雑木林。そこに立つ少女。主演の山田杏奈さんが押切作品の美少女と見事にマッチしています。いわゆる押切美少女は、長い黒髪、大きくつぶらな瞳、何を考えているか分からないクールビューティーな雰囲気が特徴的ですが、よくここまで合わせたものだなと。

私はこのデザインが大好きです。直球ど真ん中です。押切先生は、はっきり言ってしまうと絵のうまい漫画家ではありません。デッサン的に言うならば骨格とかぐにゃぐにゃ曲がってますし。

しかし漫画を描くのが上手い。女の子が可愛い。そして歪んでいるからこその大袈裟なまでの感情表現が、まだ純粋さを残した少年少女が行ういじめの残酷さを際立たせます。

リアルに胸糞悪さを感じるのはやっぱり映画ですね。実写の強みです。

しかし暴力と殺気の迫力は漫画に一歩譲ります。この表情。目の前にいたら走馬燈が見えてきそうです。

日常に潜む美と狂気

その惨劇が繰り広げられる舞台は、特に雄大でもなければお墓が八つ建っていたりもしない、ただ冬に曇りや雪が多いだけの田舎です。ですがそこに陰湿な殺人者たちと復讐の鬼がいればどうなるか。

こうなります。

なんかもーフロムソフトウェアのゲームに出て来そうな景色ですが、なんてことのない日本の田舎です。風景は自然のあり方ですが、景色は人が作るものだとよく分かりますね。

映画では血しぶきが舞いに舞い、中学生たちのむごたらしい死に様がこれでもかと出て来ます。登場人物のほぼ全員が、何らかの狂気に囚われているでしょう。

では彼女たちは特殊極まりない、一種の超人たちなのでしょうか?そんなことはありません。いかにおどろおどろしく見せても、等身大の思春期の子供の顔が出てしまいます。

怖れ、傷つき、馬鹿みたいなことを言って走り回るのです。それは時におっくうな学校生活の延長線上として、行き着いてしまった惨劇なのです。

私たちのそばにある景色 そして春が来る

ミスミソウは日本の景色の再発見でもあります。車を走らせれば数時間で着く土地に、見たことのない美しさと恐怖がある。だからこそ胸に迫り、恐ろしい。

この物語で語られることに、特別だとか人知を超えたものなどはありません。目を覆うような残虐行為にしても、発端は中学生の嫉妬や家庭環境での苦悩など、私たちも体験したことのある行き違いに過ぎなかったのです。それが閉塞感の中で歪みに歪み、血しぶきのように噴出することになりました。

押切先生はこの漫画を、映画のような構造で描いたと対談で語っています。その原作が『ライチ☆光クラブ』で知られる内藤瑛亮監督の才能と噛み合い、漫画映像化作品でも一二を争う傑作に仕上げています。

結末については映画と漫画でそれぞれ違いますので、ここでは話しません。血の色は漫画では黒、映画では赤で現れますが、どちらも白い雪の中でよく目立ちます。長く重苦しい冬。ミスミソウはその寒さを割って花を咲かせます。が、咲くことなしに朽ちる徒花もある。

雪の中に映し出される日本の自然は、人の醜さとは関わりなしに、ひたすらに美しいままです。映像化によって、その美と汚泥に今一度目を向けられてはいかがでしょうか。

ミスミソウ。小さくてきれいな花です。