『Dr.STONE』の人間賛歌に燃えろ!

『Dr.STONE』の人間賛歌に燃えろ!

爆発する科学の結晶

『Dr.STONE』の人間賛歌に燃えろ!

理科の授業中、電気工作に没頭したことはあるでしょうか。試験管に水素を集めて、自らの手で起こした爆発に心躍らせたことは。ノーベル賞という最大級の名誉が、あのダイナマイトの利益によって生まれた事実に、背筋に寒気が走ったなんて経験は?  科学、それは世界の仕組みを解き明かそうとする人間の営み。少年の心をくすぐる、身近でどこか危険な香りが最高に「燃える」要素です。それを主題にするだけにとどまらないのがこれからご紹介する『Dr.STONE』。  過去作『アイシールド21』で少年の心をわし掴みにした原作・稲垣理一郎先生と、迫力に満ちた絵をバトルにもコメディにも対応させる作画・Boichi先生の、ツボを押さえまくった職人技が読む者を虜にしてくれます。

 

Dr.STONE

原作:稲垣理一郎 作画:Boichi

 主人公・千空(せんくう)は科学オタクの男子高校生。幼馴染みの友人・大樹(たいじゅ)が長年の想い人へ告白する姿を見守っていたその時、空が発光するとともに起こった謎の現象により、地球上の全人類とともに石化してしまう。外界の状況も分からぬまま強固な意志で自我を保ち続けた結果、約3700年もの時を経ていち早く復活。しかし地球はあまりに長い月日により、文明の失われた石の世界(ストーンワールド)と化していた。千空は遅れて復活した大樹に向け、自身が信奉する科学の力を用いて文明を再建させるという決意を宣言するのだった。

「科学なめんな」の心意気

 かの名作ラノベ『ゼロの使い魔』に由来する、「地球なめんなファンタジー」なんて言葉があります。魔法やモンスターの跋扈する世界で、地球の文化や技術で度肝を抜く様を表しています。

 しかしこの漫画最大のファンタジー要素は、原因不明の怪現象により人類が石化、文明ごと滅んでしまったというもの。まさに蘇った人類は裸一貫、頼れる物は何もない、という絶望的な状況です。

 そんな中でも希望の光を絶やさないのが、科学の徒たる主人公、千空。「知恵と知識は誰にも奪われない」という格言がありますが、彼の持つ武器はまさにそれ。冴え渡る頭脳に蓄えた知識、冷静な判断力と実践をためらわない行動力により、過酷な石の世界を生き抜いてみせます。

着実な大跳躍、駆け登る文明の階段

 現代医術で江戸町人を救い驚嘆させる『JINー仁ー』、ファンタジー世界に躊躇なく火薬や銃火器を持ち込む『ドリフターズ』、フランス料理の腕で戦国武将たちを唸らせる『信長のシェフ』、自衛隊のイージス艦が第二次世界大戦中の日本にタイムスリップする『ジパング』―――現代の知識を活用する作品は枚挙に暇がありません。

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最近の漫画はマンネリ化して飽きてきたなー そう思ったことはありませんか? 私も十代の子供が活躍する漫画を見ても共感できない年齢になってきました。 ネットで面白いと評判の漫画を見ても、好みの物語でなかったこともあるかと思います。 そんな教養のある方が読んでも面白い漫画を紹介したいと思います。 いえ、これから紹介するのは、むしろ大人のほうが楽しめる漫画です。

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太平洋戦争で日本は負け、降伏してしまった…。 歴史にifはないけれど、「日本軍はどのように立ち回ればよかったのか?」と近代史が好きな方であれば、一度は考えるでしょう。 もしも未来を知る人物が第二次世界大戦に関わった場合、どのような展開になるか気になりますよね。 この漫画は現代の海上自衛隊のイージス艦が太平洋戦争中の日本にタイムスリップし、戦争という状況にいやが応にも巻き込まれていく漫画です。 わかりやすい例を挙げると『戦国自衛隊』の太平洋戦争版だと思って下さい。 この記事ではわかりやすく「ジパング」についてお伝えするために、『歴史を知っているからこその楽しみ』『様々なキャラクターの描写』『戦争シーンをはじめ当時をリアルに再現』という3つの観点から解説します。 ネタバレにならない範囲で紹介しているので、ご覧ください。

 『Dr.STONE』の興味深いところは、「それ、できるの!?」と言いたくなるような目標を立ててしまうこと。目指すべき技術までの険しい道のりを明示して、ひとつひとつクリアしていくこと。そしてあまりにも目標が遠い場合、確かに実現できるのだと、ロードマップ(行程表)として示してしまうことです。

 科学は「再現性」を重視していますので、実現不可能に思える発明でも、正しく物事を進めたならば絶対にたどり着けます。イラスト混じりのロードマップを読者に公開することで、問題を分かりやすく細分化し、それらは努力によって解決しうると断言しているわけです。

 ただしこの地道な道程は、バトル漫画で言うところの「修行」のようなもの。説得力を増すことができても、過程が面白くなければ読者は離れてしまいます。時にコミカルに、時にハプニングを交えながら、決して飽きさせない話運びと画面作りを徹底して、完成というカタルシスへと手を引いてくれます。

立ちはだかる最強、信念の帝王

 科学の力を存分にふるう千空ですが、果たしてそれは正しいのかと問う者も。驚異的な身体能力を持ち「霊長類最強の男子高校生」と呼ばれる青年・獅子王司(ししおう・つかさ)。科学の力で文明を復興させようという千空の願いに反して、彼は科学というものは人類には過ぎた力だと考え、対立します。

 猛獣ともまともに戦える司は、兵器の存在しない石の世界においてはまさに最強。しかし肉体だけが長所ではなく他者を従えるカリスマ性も持っており、対策を練ろうとする千空の行動の意図を察するほどに知性も充分。そして人間は自然とともに生きるべきだという理想のために邁進し、必要ならば他者を殺害することも視野に入れてしまう、冷徹な覚悟を決めた強敵です。

 千空vs.司――科学vs.反科学。この構造が物語を加速させ、緊迫した状況を生み出します。のちに両陣営の仲間が増えると、科学王国と司帝国の戦いとしてスケールが一段と大きくなります。科学の火を吹き消さんとする司帝国が攻めてくる前に、主人公たちは対抗できる力を作り上げられるのか。司の存在は立ち向かうべき目標であり、物語に課せられたタイムリミットでもあります。

受け継がれる魂、人間のきらめき

 科学という武器をゼロから扱うにあたり、千空は多くの困難に見舞われます。素材はどこか、素材を手に入れる道具を作らなければ、道具を作るためには設備が、もっと多くの素材と道具が必要だ、と。その反面、一度作り上げたものは、さらなる技術の礎として活きてきます。

 科学とは、積み重ねです。先人の歩んできた、ここまでは正しいと信じた道を、本当にそうかと確かめながら、もう一歩先へ進める旅。『Dr.STONE』はストーリーの進行とともに、人類が舗装してきた科学という旅路を追体験する話でもあります。

 だからなのでしょう、主人公である千空は、科学の力を誇ることはあっても、それを自身の力として驕ることはありません。科学に敬意を表し、人間の力を信じ抜くあり方が、主人公の最大のキャラクター性。

 人類の成果たる科学は、ヒトという種族が受け継いできた、「より先へ進もう」という意志の象徴――この作品に描かれる科学そのものが、高らかに歌われる人間賛歌なのです。

 2018年10月現在、ついに科学王国と司帝国との戦いも、直接対決が始まりクライマックスとなっています。

 先の読めない展開ながら、読者の期待は決して裏切らないという信頼に満ちたこの作品。科学が好きな方、あるいは少々苦手な方だったとしても、一度手にとってもらえれば、心揺さぶる極上のエンターテイメントを味わってもらえるに違いありません。