おっさんの存在が光るヒューマンドラマ『3月のライオン』

おっさんの存在が光るヒューマンドラマ『3月のライオン』

美人三姉妹だけじゃない!

おっさんの存在が光るヒューマンドラマ『3月のライオン』

地上波でアニメ化し、一気に知名度UPを果たした羽海野チカ著「3月のライオン」(白泉社『ヤングアニマル』連載・単行本既刊13巻※2018年10月現在)。『マンガ大賞2011』で大賞を獲得した当時も注目されましたが、NHK地上波の媒体力は抜群ですね。青年漫画誌のラインアップを映像化したことでさらに、幅広い読者層に浸透しました。現実世界で藤井聡太棋士の台頭が話題になりましたが、3月のライオンの主人公は同じく中学生でプロ入りした経歴を持つ棋士・桐山零。下町に移り住み孤独に将棋に打ち込む高校生と、彼とひょんなことで関わりを持つようになった、川本三姉妹を主軸にした作品です。 実の両親が早逝し、幸福とは縁遠い孤独な主人公に血が通っていく過程と、棋士としての成長が描かれた3月のライオンは、ジャンルで言うとお仕事系×ヒューマンドラマ。川本三姉妹との出会いを機に、零が自らの意思で世界を広げようとする姿が丁寧に表現されていました。周囲との様々な触れあいが、将棋一辺倒でどこか流されて見えた彼の人生に、彩りを与えます。個々のエピソードが、読者の共感と人気を集めました。しみじみしたり、ほっこりしたり。あざとさのない率直な感動が印象に残り、大人の心にも響きます。 じわじわくる感情の波がヒューマンドラマに効いてくる、3月のライオン。その独特な優しさが感じられる世界観を支えるのは、物憂げな若き棋士でも薄幸な美人三姉妹でもなく、実は、おっさん連中なんです!ここでは、地味でも存在感が光る愛すべき3人を選抜。彼らのキャラクターと役割を見ていきましょう。

 

将棋大好き!お人好しな高校教師・林田高志

将棋に関する負けん気以外は控えめでコミュ障気味の零が通う、高校の教諭。学校内では、プロ棋士であることを知られていない地味っ子な主人公の境遇を知る希少な理解者。

アマ将棋4段の壁をやぶる目標を持つほどの好事家でも、職権濫用だと自重して零に教え乞うことはしない超律儀なおっさん。[※1]世話焼きの面もあり、対局で欠席がちなためクラスになじめない主人公を常に気にかける。

高校生として、プロの棋士として局面に応じて零を導いて見守る数少ない大人で、引っ込み思案な彼を要所で大々的に応援する気概も。超ネガティブな主人公に、青春を謳歌して欲しいと思いつつ、プロ棋士としての成功も願い、背中を押す。

3月のライオンイチのストイックな苦労人!頼れる兄貴分のプロ棋士・島田開八段

将棋界で異次元の強さを見せる宗谷名人と奨励会の同期で、山形の農村から将棋会館に通っていた。上京の費用を工面するため地元で農作業を手伝い、故郷の熱い応援を受けて高段位を取得した苦労人のおっさん。あるきっかけで主人公と接点が増え、切磋琢磨する間柄に。

島田八段と行動を共にすることで、零の将棋観や棋界の人間関係に変化が見られるようになった。多くを背負う重圧のせいか、あるいは強烈な先輩・同僚・後輩に囲まれた気苦労のせいか、重い胃痛持ち。それでも研鑽を欠かさず勝負の世界で戦う信念の強い背中に、主人公も引っ張られる。胃痛の原因は、彼のおでこにも影響を与えている模様。

美人三姉妹のおじいちゃん♪江戸っ子和菓子職人・川本相米二

3月のライオンが誇るヒロイン・川本三姉妹と暮らすちょっと頑固な和菓子職人。妻と娘を亡くしても気丈に暖簾を守ってきた。両親不在の三姉妹の親代わりとして現役にこだわり、零の居場所にもなる川本家を支える。

主人公を同家に招き入れたのは長女・あかりだが、他者との関わりが苦手な彼の居心地を悪くせぬよう、配慮していたのが何を隠そうこのおっさん。将棋好きにも関わらず、騒ぎを避けて零がプロ棋士だと当初は孫娘に伏せていた。[※2]おかげで、手ほどきを受けたいのを我慢するハメに。

主人公にひとりの人間として接し、押し付けることなく男気や人生を説く。厳しい世界で不器用に生きる零の心情や状況を時に三姉妹に代弁する。

零と川本三姉妹の父親的な役割を担うおっさんたち

このほか、破天荒な将棋連盟会長や年齢不詳のド天然な将棋の神様・宗谷名人など、高校生男子が主人公の作品にして個性派のおっさんが多く登場。お仕事系×ヒューマンドラマというジャンルならではのキャラクター構成です。

彼らの泥臭さと大人の温かさが同居したカッコよさが心にしみる、3月のライオン。零と三姉妹は父親不在の共通項もあり、成熟した男性の役割が肝になっている気がしました。特に主人公は人生と棋士、両側面でおっさんたちから助力を得てそれまで欠乏していたものを補完し、脱皮した印象です。

彼が年相応のよろこびや青春の醍醐味を知るために林田先生は不可欠なキャラクターだし、島田八段は零が将棋の道で求められる精神力と広く確かな視野を鍛えるための重要な人物。川本三姉妹の祖父・相米二は、男として人間として主人公が成長していく際に助けになるキーマンです。

まとめ

寄り添って導いたり、背中を見せることで引っ張ったり、育み慮(おもんぱか)ったり。不器用なおっさんの優しさと愛のある叱咤は、高校生プロ棋士と三姉妹の人生を豊かなものにし、読者の感情を揺さぶります。

この味のある優しさは3月のライオンの作風に大きく影響していましたよね。控えめなエールを送るおっさんたちが、主人公の再生と進化に良質な人情劇を添え、ヒューマンドラマとしての完成度を上げたわけですから。

じわじわこみあげる心の熱が後を引く…。そんな読後感を支えるおっさんたちの好アシストも見逃さず、これからも3月のライオンを楽しんでいきたいと思います。

[※1]校内で将棋部の発足を画策する動きなどがあり、のちにコーチを引き受けることとなる
[※2]三姉妹のうち長女だけ、アルバイト先のかねあいで零がプロ棋士だと周知していた