この“じれったさ”こそ昭和の魅力『めぞん一刻』

この“じれったさ”こそ昭和の魅力『めぞん一刻』

高橋留美子の傑作!

この“じれったさ”こそ昭和の魅力『めぞん一刻』

今や日本には数多くのジャンルの漫画が存在し、特にラブコメに至っては数えきれない程の作品があります。 描かれた年代ごとに時代背景も違うのですが、今回私は80年代に描かれた漫画で、最高傑作と言ってもよい「めぞん一刻」を推したいと思います。

 

あらすじ

この物語は「時計坂」と呼ばれる町にある、今にも崩れそうなおんぼろアパート「一刻館」を舞台に、そこの住人で大学浪人生の「五代 裕作」と、一刻館に住み込みの管理人として赴任してきた「音無 響子」を中心に繰り広げられるラブコメです。

登場人物

一刻館の住民は、

  • 1号室の住人「一の瀬 花枝」は酒好き、噂好き、騒ぎ好きと三拍子揃ったおばさん。

  • 2号室の住人「二階堂 望」は高級マンション「立国館」に入居する予定が、どういう訳か何かの手違いで一刻館に入居した大学生。

  • 4号室の住人「四谷」は本名不詳、年齢不詳、職業不詳とこれまた3拍子揃った謎の住人。

  • 6号室の住人「六本木 朱美」はいつも裸同然の下着姿で五代に絡む、これまた酒好きのお姉さん。

と実に個性的なキャラばかりであり、頻繁に行われる宴会は一刻館の名物で、この作品に無くてはならない描写です。

物語の流れは序盤は文字通りの「ラブコメ」なのですが、終盤に向かうにつれて「シリアスなラブストーリー」に姿を変えていきます。この作品の流れの中で私が読者の方に是非推したいポイントがあるので、それを今からご紹介します。

懐かしい「昭和」

私が一番「めぞん一刻」で推したいのは、時代背景から来る「じれったさ」です。

現代において、みんな簡単にスマホで連絡を取り合い、お互い近況を報告したり、場所を確認して待ち合せるなどを当たり前のようにしていると思います。しかし、この作品の舞台は「昭和」です!スマホもなければ、ガラケーすらない時代....。自宅に黒電しかなく、お互いどこにいて何をしているのかすら簡単には分からない時代...。  

ですので、現代が舞台のアニメや漫画では表現できない時代背景が、この「めぞん一刻」の恋愛模様をより面白くしているように感じます。

「めぞん一刻」の中で頻繁に使われる描写として、「お互いのすれ違い」があります。待ち合わせ場所に来ない、探しに行ってもすれ違うばかりで会えない、いつもの時間になっても帰ってこない、今何をしているのかもわからない、連絡しようにもその手段がない...。

これらは昭和の時代ならではの「じれったさ」や「不安」ではないでしょうか。今時の漫画ではなかなかこの部分は表現できないと思います。

トラブルに巻き込まれてばかりの主人公・五代と響子さんは、お互いにこの「すれ違い」を何度も経験することになります。その度に、読者は二人の「すれ違い」から「じれったさ」を感じるのです。

上手くいきそうなのに、毎回上手くいかない....。でもその障害を乗り越えて距離が近くなっていく二人を、本当に応援したくなります。

ラブコメに必須「恋のライバル」

またこの「じれったさ」をさらに引き立てているのが「恋のライバル」です。ラブコメには欠かせない恋のライバルなのですが、この「めぞん一刻」においても多数のライバルが登場。

三鷹 瞬

まずは五代と同じく響子さんを狙う三鷹 瞬!彼の存在は主人公・五代の対比のように描かれます。

貧乏浪人生(後に大学生)五代に対し、一方の三鷹は容姿端麗、スポーツ万能(アイススケート意外)、一流大学卒業。家賃20万程の高級マンションに独り暮らしで、実家も資産家というハイスペック。普通に考えれば、競う余地もないのですが、しかしここがこの漫画の面白いところ。2人とも、そうは上手くいきません。

五代は様々なトラブルに巻き込まれ上手くいかず、三鷹も完璧そうに見えても実は「犬恐怖症」という致命的な欠点のせいで、響子さんの飼い犬「惣一郎」に近づけず、肝心なところでいつもあと一歩踏み込めない...。この2人の「勝負のつかなさ」もまた、「じれったさ」の1つです。

この対照的なバックグラウンドの2人の間で揺れ動く響子さんを見ていると、女性が結婚・恋愛において大切にしたい事が描かれているように感じます。

七尾 こずえ

次に五代のガールフレンド・七尾 こずえです!

五代のアルバイト先である酒屋で出会った、違う大学に通う1つ下の女学生。五代との再会をきっかけに、五代へ積極的にアプローチを開始し、結果的に長く交際。

彼女との関係は結局、五代の優柔不断さが招いているんですよね。響子さんという本命がいるにもかかわらず、彼女との関係をズルズル伸ばしてしまった....。そんな優柔不断さで長く響子さんとの距離を縮められなかった部分が、こずえを介して描かれています。

「こずえちゃんじゃなくて響子さんに集中すればいいのに...」と読者は「じれったさ」を感じながら、彼らの関係を見守ることになります。

八神 いぶき

最後に五代が教育実習の際、受け持ったクラスの委員長・八神 いぶき!彼女はどちらかと言えば、高校時代の響子さんをイメージしているように感じます(性格はもっと勝気ですが(笑))。

彼女は五代と響子から見れば一刻館を引っかき回す「お邪魔虫」に見えますが、ただ一途に五代を好きになって行動しているので、不思議と嫌な子に見えないのが魅力です。矢神の猛烈な五代へのアタックは、ライバルとして見ている響子さんを挑発し、読者にも響子さんにも「じれったさ」を感じさせます(笑)。

彼女の登場は、結果的に五代と響子の関係をより深め、物語を終盤(シリアスラブストーリー)へと導いてくれます。

苦労人の主人公・五代

また、五代が背負う苦労も、響子さんとの関係を「じれったいもの」にしています。

彼ははじめ、大学浪人生として登場します。響子さんとの恋においても多数の苦労を経験し、大学卒業後も就職浪人として保育園、キャバレーでアルバイトをしながら、2年近く専門学校に通って保育士免許取得を目指すなど、数えきれないほどの苦労が描かれています。

特に就職浪人中は、五代の追い詰められた思いや悩みが描かれます。好きな人に情けない姿を見せたくないという思いから、響子さんへアプローチすることもできません。そんな辛い心情が描かれており、2人が想い合っているにもかかわらず成就することができない「じれったさ」を感じます。こういう状況、自分に置き換えて想像しても辛いですよね...。その辛さ、じれったさが伝わってきます。

しかしその苦労を乗り越えて保育士として採用され、響子さんと結婚できたからこそ、最後の感動は他のどのラブコメ作品より輝いて見えるのです。

「終わり良ければ総て良し」という諺があるように、この「終わり方」というのも作品の良し悪しを決めるのに非常に重要になってきます。数多くの「じれったさ」を乗り越えたからこそ「終わり方」がより美しく感じられ、世代を超えて今なお読者から愛されている理由だと思います。

この感動を、是非まだ読んだこと無い人にも味わってほしいと思い、この焦れったさこそ昭和の魅力である「めぞん一刻」を推したいと思います!

最後まで読んでいただきありがとうございました!