大河伝奇『シュトヘル』

大河伝奇『シュトヘル』

2018/10/13 更新

「文字」がテーマの歴史漫画!?

大河伝奇『シュトヘル』

歴史漫画にも色々種類がありますが、私はその中でもテーマがあるものが好きです。 歴史や戦争の概略をなぞるのではなく、虫眼鏡で見るようにその時代に特有の何かに焦点を絞る。そのことでむしろ、歴史の大きな流れがはっきりと、残酷なまでに見えてきます。 有名なところでは、傾奇者を題材にした『花の慶次』、数奇というちょっと馴染みの無い単語がテーマの『へうげもの』など、一つの物事に集中したためか、名作が多い印象があります。 そして今回紹介するのは、「文字」がテーマの漫画、その名も『シュトヘル』です。

 

「シュトヘル」 の著者は

文字がテーマって、「なんか狭い本棚の隙間でじいさん達がこちゃこちゃやる話?つまんなそ。」とか思うかもしれませんが戦います。紙面の半分くらい戦ってます。少年漫画もびっくりです。

作者は『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のキャラクター原案を担当した伊藤悠先生。漫画好きには『皇国の守護者』のコミカライズの方が有名かもしれませんね。あれが打ち切られたのは本当にあり得ない…。

愚痴はさておき、この漫画の舞台は13世紀初頭。日本は鎌倉時代。この時ユーラシア最大強国が猛威を振るっていました。
いわずと知れた大蒙古。モンゴルです。

舞台は13世紀はじめのモンゴル

でかい!

大帝チンギス・ハンに率いられた蒙古軍は天下無敵。諸国を次々併呑し、逆らう国は皆殺し、文字通り一人残さず虐殺していきます。
この漫画の主人公の一人、シュトヘルは、その遠征の通り道となって滅ぼされた国、西夏の女兵士でした。

過去形です。
彼女の守る街は滅ぼされ、西夏もじきに滅びようとしています。虎の毛皮をかぶった将軍、ツォグ族のハラバルに仲間を皆殺しにされ、その遺体を狼から守るうち、驚異的な戦闘力と恐るべき復讐心を宿します。

ハラバルです。強そう。

ハラバルを追い、道中でモンゴル軍を刈り取るうち、彼女は二つのものを得ました。モンゴルの言葉で悪霊、シュトヘルの名。そして、老人と鷹を連れ、西夏の秘宝玉音同を守る少年、ユルールです。

西夏の文字を後世に残すために秘宝・玉音同を守る

かわいいショタ、ユルール。

玉音同は西夏の文字の全てを記した宝玉の板。西夏とその書物のことごとくが焼かれた今、これを砕かれれば西夏の歴史、記憶さえも失われます。

ユルールはハラバルの腹違いの弟。そしてハラバルの母、西夏人の継母に教わった西夏の文字への愛着のためにこの秘宝を守ろうというのです。
復讐の鬼であるシュトヘルも西夏の民。復讐に身を焦がしながらも、ふるさとの文字を残すために、ユルールと玉音同を安全な地に送ろうとします。

しかしモンゴルは強い。これから史上最大の帝国になろうとする日の出の大国。シュトヘルの追うハラバルも、非モンゴルにも関わらず軍を率いるだけあって、無双の弓の名手です。健闘むなしく、シュトヘルは捕らえられ、首をくくられて死んでしまいます。

え、死ぬの?

死にます。
というかこれが物語の始まりです。

シュトヘルの死から物語が始まる

シュトヘルの初登場は絞殺死体です。
もちろんこれで終わるわけではありません。物語はここから。

死んだと思われたシュトヘルの体に謎の現代男子高校生が憑依!

ちゃんと首に縄が巻かれてますね。これが一話。いつ見てもすごい。

彼の名はスドー。訳も分からぬまま最強の女戦士になってしまったお調子者の高校生は、ユルールの友人となって、彼と共に戦うのです。
なんというか、ちょっと超展開的な気もします。スドーの存在は賛否両論のようですし。

しかしスドーがいらないとは言わせない。

スドーの意外な役割

『シュトヘル』の魅力はまずガッチガチのアクション。シュトヘルは強い。とてつもなく強いです。全員が騎兵であるモンゴル兵をバッタバタとなぎ倒します。

しかしモンゴルはもっと強いのです。シュトヘルが百の敵を刈る間に、数万数十万の大軍勢は着々と南下し、諸国を征服していきます。
悪霊がいかに恐ろしくとも、しょせん故郷を失った敗残兵。歴史を動かす力などありません。

シュトヘルもそれを自覚し、復讐と守護の間で揺れ動きます。ユルールも理想はありますが、それをかなえる力も知恵もない子供。彼もまた何を守るべきなのかに悩み、西夏の文字、歴史そのものを背負う重さに苦しみます。

二人とも悩んでばかりです。そんな中、ちょっと不安になることはあってもほとんど能天気なスドーは、狂言回し的なエネルギーで彼女らを引っ張っていくのです。

シュトヘルinスドー。短髪でかわいい。

アクションで魅せ、ストーリーは骨太。そしてそれらを彩るキャラクターたちも、これ以上ないほどバラエティに富んでいます。

シルクロードは有名ですが、ユーラシアを制覇したモンゴルはまさに世界帝国。あらゆる人種がごった返しています。
中東から来たと思わしきアフリカ系の商人。欧州人の女医師。シュトヘルは西夏人ですし、ユルールはツォグ族という騎馬民族出身。もちろんモンゴル、漢人もいます。

地形、気象も広大で多彩。冬には川が凍りつく北から、徐々に南へと。大陸ならではの雄大な冒険譚を臨場感溢れる描写で描き切る画力は、さすが傑作『皇国の守護者』のコミカライズを生み出した実力派と唸らされます。
さらにさらにそこから編まれる文字と人間のドラマの複雑さ、甘美さときたらもう。

まとめ

とにかく、濃い。

何度でも読み返せます。語り尽くすことのできない漫画です。
全十四巻で一気買いも可能。是非おすすめします。表紙は芸術。並べるだけで楽しくなるほどの出来映え。

最後に。

スドーは、かわいい。
それだけで十二分に読む価値はありますので、一読してみてはいかがでしょうか。

※冒頭でご紹介した『へうげもの』の解説はこちら